2023年には中国を抜き世界最多人口の国となるインドのこれからの成長に、今世界中の注目が集まっています。
日本でも、別記事で取り上げたようにインド関連の投資信託銘柄が新設されるなど、今後のインド投資が活発になることが予想されますが、そんなインドの経済を担う企業について皆さんはどの程度ご存知でしょうか?
私自身は正直、自動車で有名なタタ・グループぐらいしか聞いたことがなかったです。日本ではまだインド企業の製品でなじみ深いものは少ないので、おそらく他の人の多くも私と同じ程度の認識しかないのではないでしょうか?
そんな私を含めた皆さんに向けて、これからのインド経済を担っていく有力企業についてご紹介していこうとシリーズ企画を立ち上げました。
第四回は、インドの国営たばこメーカーが民営化し、ホテルや食品事業など多角化を進める巨大企業「ITC」について解説いたします!
ITCの概要
企業名 | ITC(Imperial Tobacco Company of India Limited) |
業種 | 日用消費財 |
設立 | 1974年 |
時価総額 | 687億ドル(2023年6月時点) |
Nifty50指数組み入れ銘柄順位 | 6位(2023年6月時点) |
ITCは、まだインドがイギリスの統治の下にあった1910年に国営のたばこ会社として設立された企業で、1974年に民営化されました。日本でいうとJTととても似ている企業ですが、時価総額でJTが404億ドルに対して、ITCは687億ドルと約1.7倍の規模の差があります。この点はやはり世界1位の人口を持つインドのスケールの大きさというべきでしょうか。
ここで少しインドのたばこ事情について触れておきます。
インドでは伝統的に、火をつけて喫煙する紙巻きたばこよりも、火を使わない噛みたばこが主流でした。そのため、現在でも商店で噛みたばこが並ぶ隅に紙巻きたばこが販売されている状況です。ただ、世界中で喫煙のリスクが認知され、喫煙反対の流れがある中で、インドでも喫煙はすでに推奨されていない状況になっています。しかし、そこはインドならではというか、喫煙者は年々減少してはいるものの、2019年時点で国内の喫煙者は約1億万人と中国に次ぐ規模があります。そんな中で、ITCはインド国内のタバコ販売量の実に80%を占めており、同社の「ゴールドフレーク・シガレット」ブランドは、インド国内では最も有名な銘柄として認知されています。
そんなインドを代表するたばこメーカーである同社ですが、喫煙者が年々減少しているインドのたばこ事情から、新たな儲けの柱を見つけるために、様々な事業展開を多角的に行っており、現在ではたばこ製造事業のほかに、日用消費財の製造、ホテル経営、梱包材・紙製品製造、農産物事業の4事業が基軸となる複合企業へと変化しました。
特に日用消費財の事業では、お菓子や石鹸、お香やノートなど、インド国民の生活に密着した製品分野で多くのシェアを獲得するなど、すでに国民の生活の一部として不可欠なブランドとして認知されるようになっており、実際にITCはインド最大の食品販売会社でもあり、国内約200万の小売店ネットワークに製品を供給しています。
このように、たばこ事業から始まったITCは、国内のたばこのシェアを独占しながら、非たばこの事業でも多角化に成功した、まさにインド国民の生活の要といえる企業なのです。
ITCの強み
ITCの強みは、400万人以上の農水産品の生産者と直接つながっている自社のサプライチェーン網があることです。
ITCには「e-Choupal」(ヒンディ語で集まる場所という意味)と呼ばれるインターネットを介した生産者とのネットワークシステムが存在し、そこで大豆や小麦、魚介類などを直接調達することができるようになっており、このシステムのおかげで、ITCは原材料の調達価格を抑えることができているのです。
また、このシステムは生産者側にもメリットがあります。もともと、インドでは生産者と小売業者の間に悪質な中間業者が介在することが多く、生産者への買いたたきが問題になっており、インターネットがあれば小売業者と直接つながれる「e-Choupal」の導入は、生産者にとっても非常に大きなメリットであり、瞬く間に利用者が増加し、今では400万人以上の生産者が利用しているとも言われています。
また、生産者との直接取引が可能になったことで、生産物の品質向上や安全性向上にもつながり、結果としてITCの製品は低価格で高品質となり、日用品の分野では後発企業ながらも、市場の高いシェアを獲得することができたのです。
加えて、この「e-Choupal」の導入で、零細農家でも適正価格で取引が可能になり、収入・生活水準の向上につながったと評価されており、ITCは消費者だけでなく、生産者にとってもまさに生活の要といえる企業になっているのです!
ITCはすべてのインド国民の生活に密着した大企業!
今回は、よく知らないインド株を紹介シリーズの第四回目として、ITCについて紹介しました。
ITCはもともとインド国営のたばこメーカーでしたが、民営化後に喫煙者の減少に伴い、経営の多角化を推進して、成功した企業になります。特に日用品の分野では生活に必要不可欠な製品の分野で高いシェアを次々と獲得し、たばこ以外の分野でもインド国民に広く認知されている一大ブランドとなりました。
この日用品の分野でITCが成功できたのは、「e-Choupal」と呼ばれる生産者と直接つながっている自社のサプライチェーン網を活用して、高品質な原材料を低価格で調達できたためであり、この「e-Choupal」の普及が生産者の収入・生活水準の向上に貢献するなど、ITCは消費者だけでなく生産者にとっても日々の生活の要として重要な役割を担っている一大企業なのです。
インド国内の小売業界のこととなると、日本人にはなじみのない分野ですが、世界一の人口があるインドの生活に密着した企業となれば、今後の成長はかなり期待ができるものと思います。もし、インド旅行に行くことなどがあれば、ぜひITCブランドの製品を探してみてください!
今回は「【よく知らないインド株を紹介!④】ITCを解説!」について書きました。
記事の中で参考になる点があれば運用のヒントにしてみてください。
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