最近モノの値段が上がり続けています。むしろ値上がりしていない製品を探すほうが難しい状態で、生活は苦しくなるばかりです・・・
今後も10月にさらに多くの品目が値上げされるなど、聞いているだけで気持ちが落ち込むニュースがある一方で、日銀が従来より2%としていた物価目標の達成が難しいというニュースが伝えられました。
これだけ多くの品目が値上げされているのに2%程度の物価目標の達成が難しいとはどういうことなのでしょうか?
今回は、ニュースでよく聞く日銀の物価目標について解説するとともに、今後もし日銀が物価目標を修正したらどのような影響があるのか?考えていきたいと思います。
日銀の物価目標とは?
「物価目標」という単語について小学館 日本大百科全書では以下のように説明されています。
中央銀行や政府が示す物価上昇率の目標。上昇率の数値、幅、時期などを公表し、市中の通貨量を制御しながら緩やかなインフレーション(インフレ)を起こし、安定的な経済成長につなげるねらいがある。…(中略)…目標値として消費者物価指数(CPI)のほか、エネルギー・食品を除くコアCPI、個人消費支出の物価動向を示すPCEデフレーターなどが使われる。多くの国で2%前後を目標値としている。
小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
要するに「安定した経済成長が望める物価環境」と中央銀行が判断する目標値が物価目標ということですね。
上記にあるように、日銀の物価目標は2%を長年目標値としており、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)や、ECB(ヨーロッパ中央銀行)も同じく2%を目標値としています。
それでは、直近の日本の目標値の様子はどうなっているのでしょうか?
総務省の発表した23年4月のコアコアCPI(除く生鮮食品、エネルギー)は前年同月比+4.1%となり、短期的には2%の目標値を大きく超える実績値が表れており、前年比の上昇傾向は過去1年間続いている状態です。
しかし、日本銀行は4月の展望レポートで、コアコアCPIが2023年度の+2.5%から2024年度に+1.7%と低下した後、2025年度には+1.8%とわずかに高まるとの予測を示しており、2%の物価目標を長期的に達成する可能性は低いという見解が強いことがレポートからうかがえます。
これは、今回の短期的な物価上昇が、ロシアによるウクライナ侵攻や円安による原材料価格の高騰など、外的な要因によるもので、日本の賃金が上昇したことによる本質的な物価の上昇ではないためであり、現在の日本の賃金上昇率が芳しくない状況がこのレポートにも反映された結果といえます。
もちろん、これは現在の状況から推測される見通しにすぎないので、今後大企業以外でも企業の賃上げが行われていけば、物価目標の達成も十分可能な範囲にありますが、もし来年の春闘で賃金上昇率が再び下振れ、2%の物価目標の達成が見通せない状況となれば2%の物価目標自体を見直す必要が出てきます。
実は、この物価目標の見直しこそ今後の日本経済全体に重大な影響を与える可能性があるのです。
物価目標が見直されるとどうなるのか?
それでは、物価目標が見直されるとどうなるのでしょうか?
先述した通り、多くの国の中央銀行では物価目標を2%としており、日銀もこれまで他の国と足並みをそろえていました。ただ、今後日本の物価目標だけが2%以下など低く見直されてしまうと、急激な円高状態に陥って、日本の稼ぎ頭である自動車産業などの輸出産業の企業が大打撃を受ける可能性があるのです。
なぜそうなるのか?極端な例ですがアメリカが2%の目標を維持している中で、日本が物価目標を0%(物価上昇しない)に変更した場合を考えると、
○ アメリカ:物価上昇 → 1ドルで買えるモノが減る → 1ドルの価値が下がる。
○ 日本:物価上昇せず→ 100円で買えるモノ同じ → 100円の価値変わらず。
となり、ドル<円となるため、円高状態が進むことになります。
この場合、そもそも賃金上昇率が悪いために物価目標を引き下げたのに、それによる円高によって、日本の主要な輸出産業の企業の業績が悪化して、さらに賃金が上がらず、また物価目標を引き下げるという最悪の悪循環の状況が生まれてしまう可能性もあるのです。
現在のところ、日銀は物価目標を2%で維持していますが、今後の賃金上昇率次第で目標の見直しを迫られてしまうことは十分にあり得ます。ですので、最近政府も企業の賃上げに本腰を入れて取り組んでいるのです。
物価は上がってもらわないと困る!もちろん賃金はそれ以上に上げて!
今回の記事では、日銀の物価目標について取り上げました。
物価目標は「安定した経済成長が望める物価環境」と中央銀行が判断する目標値であり、多くの国で2%が目標値とされています。
日本でもこれまで2%を目標値としてきましたが、直近の賃金上昇率から長期的な物価目標の達成は難しいという見解が強く、今後目標値の修正が行われる可能性も十分にあります。
ただ、物価目標の引き下げは急激な円高を招く可能性もあり、輸出産業がメインの日本経済が大打撃を受けることになるため、物価目標を達成するために、今後賃金が上昇して長期的に物価も上昇するようなシナリオを政府と企業がきちんと描く必要があるのです。
賃金上昇について、私たち個人でできることはほとんどありませんが、賃金が上がらない状況が、日本の景気を現状維持ではなく、さらに悪化させる可能性を持っていることを知って、一人一人が危機感を持つことで今の状況を変えることができるかもしれません。
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